十全病院について

ごあいさつ

はじめまして、岡 敬と申します。理事長としてご挨拶申し上げます。

当グループの先駆けとして、昭和29年9月に十全病院が小立野2丁目に開設され、平成8年7月に現在地に移転しました。合わせて、同時期に介護老人保健施設ピカソを、平成24年9月より短期入所生活介護施設ピカソIIを併設しております。十全病院の特徴としては、精神病床のみ264病床を有する中規模病院であり、主に急性期治療を担う精神病棟入院基本料15対1に対応する一般病棟のほか、精神療養病棟、特殊疾患病棟を有しています。平成29年現在で創立63年を迎えますが、これまで、老若男女問わず、心のご病気の方々や高齢者の介護を中心に地域精神科医療・福祉・介護を担う専門集団として組織作りを行いながら、基盤となる統合失調症の治療や、介護に抵抗し妄想や徘徊などに代表される周辺症状が問題となる重度の認知症への治療を行ってきました。十全病院におきましては、診療部長である大山育子医師は各病棟の入院に関するマネジメントを行う傍ら、診療においては摂食障害を専門としております。平成28年4月より、日本認知症学会および老年精神医学学会専門医である中村一郎医師及び、児童・思春期精神科の診療を行う下田和紀医師が入職されました。これにより発達障害を含む18歳以下の児童・思春期精神科専門外来(毎週月曜午前・午後および木曜午前・午後、平成29年4月より発達障害専門外来を水曜午前・午後に追加しています)を行っております。また、岡敬がうつ病・双極性障害・リワーク専門外来(毎週月曜日と金曜日午後)を行っております。これら専門外来は北陸地方において、非常に少ないのが現状かと思います。介護老人保健施設ピカソは身体的問題にも十分に対応できる外科医の道場昭太郎施設長や優秀な職員による、きめ細かい介護サービスと、金沢医療センターなどとの強固な病診連携のネットワークが担保されており、おかげさまで、この20年を超える期間で多くの利用者やご家族、医療機関などから厚い信頼をいただいております。


さて、平成18年4月より勤労者でも来院しやすいように、医師会活動などで代表される地域に根付いたうつ病治療に取り組む役割から、金沢駅西にJクリニック(精神科診療所)を立ち上げました。年間受診患者数は延べ12,000名前後で、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の患者が90%近くを占め、圧倒的にうつ病や双極性障害、各不安障害およびストレス関連疾病が多い特徴があります。特に日本うつ病学会双極性障害委員会に属する武島稔Jクリニック院長と岡敬が初診で構造化面接による診断を行い、明確な治療指針を説明した後に、綿密な心理教育や社会リズム療法を実施しながら、なるべく早期に治し、仕事や家事など本来の役割に戻れるように治療しております。うつ病と双極性障害(双極性うつ病)との鑑別は困難なことが多いですが、反復性うつ病でも通常の抗うつ薬を数種類、使用しても治療が難渋し、気分の変調を呈する患者さんも多いため、気分安定薬を使用することによって、寛解に至ったケースも多く経験しております。未だに双極性障害の診断や治療に関する情報は患者さんやご家族においても不足しており、県内外の医療機関からセカンドオピニオンを依頼されることも多いですが、武島稔院長がその治療の成果を臨床研究という形で日本うつ病学会等において毎年、発表しており、近年では欧州の著名学術雑誌にも多くの論文投稿を行っています。岡敬はJクリニックでの通常診療に加えて、十全病院専門外来の方で十分な診療時間を確保した上で、北陸地方では唯一、双極性障害に対する対人関係-社会リズム療法(IPSRT)を実施しており、さらに適性が確認された場合かつ必要に応じて反復性うつ病や各不安障害、ストレス関連疾病などに対しても薬物療法と対人関係療法(IPT)を併用しております。欧米ではIPTは、認知行動療法(CBT)と並んでエビデンス・ベイスドな精神療法の双璧をなす存在となっております。対人関係療法研究会の中で、国際認定IPTトレーナーである水島広子先生のもとでトレーニングを積み重ねており、国内における対人関係療法およびIPSRTの質の向上に努力しているところであります。また、石川県医師会うつ病GP連携事業を中心に、うつ病の事例検討や企業精神科産業医(顧問医)、金沢市の泉野健康福祉センター(旧保健所)の心の相談事業なども行っております。


ところで、厚生労働省患者調査(平成26年)によれば、約110万人ともいわれているうつ病や双極性障害の患者さんが治療を受けておられます。近年、うつ病における社会的コスト(総費用)が注目されており、その中で生産性の喪失として、absenteeism(欠勤・休職によってもたらされる生産性の喪失)とpresenteeism(出勤はしているが認知機能の低下によってもたらされる生産性の損失)というものがあります。休職と業務の能率低下で2.8兆円の損失が推定されますが、回復が不十分のままの就労は、結果的にpresenteeismを引き起こすことになり、総労働損失コストの中で後者の占める割合が年々、増えているのが現状です。その中で、業界を問わずストレス脆弱性の高い若年者によるうつ病の軽症化・慢性化がみられ、その割に復職できないケースが急増しています。一般企業でも 15~34 歳の離職率が高く、現在、自殺者が3万人を切ったとはいえ、日本経済の屋台骨となる20歳から50歳代の自殺者は減ってはおりません。その背景にはうつ病の若年発症に比較的多い双極性障害や発達障害の傾向を持つ勤労者の治療や復職のマネジメントに問題があること、あるいはリーマンショック以降、職場環境が激変し、平成24年頃より職場が求める復職可能なレベルはさらに高くなり、超顧客主義といわれる日本独特の企業的アイデンティティと、本来の定型業務の一部は非正規社員やアウトソースに流れ、自分で業務内容を創意工夫しながら、国内外の競争に打ち勝つために、より付加価値のある仕事をしないと正社員に昇格、あるいはキャリア・アップできない経済・産業構造とのミスマッチが起きていることも追い風となっています。そんな状況の中で、マスコミが命名したブラック企業といわれる職場環境が劣悪な企業が増えてきていることから、ご承知のように、平成27年12月より50名以上の従業員を抱える企業に「ストレス・チェック制度」が導入されたわけです。私達は医療法人として、悩める企業のパートナーとして、何かお手伝いできることはないか色々と考えておりますが、平成20年に発足された「うつ病リワーク研究会(五十嵐良雄代表世話人)」で研鑽を積みながら、平成23年4月より十全病院のデイケアの枠組みでリワーク・プログラムを開設しました。現在、リワークという言葉だけが独り歩きし、一部の企業に大きな誤解を持たれておりますが、十分な休職期間をいただいた上で、うつ病等の休職者に対する復職のためのリハビリテーションプログラムとして、複数の心理社会的治療(集団CBTや心理教育、ストレスマネジメント、認知矯正療法(NEAR)、休職の振り返りなどを主体とした)によるプログラムを実施しております。現在、北陸地方では実施している医療機関は他にございませんが、平成28年10月より認知リハビリテーションであるNEARを復職や就労を目指すうつ病、双極性障害さらに発達障害を対象として、資格を得た認知矯正療法士(作業療法士)が実施しております。以上のプログラムは医師や精神保健福祉士、看護師、臨床心理士、作業療法士によるチーム医療で行っています。


最後に、平成29年度からの展望としては、年度中にクロザピンによる難治性統合失調症治療の導入、発達障害の復職・就労者のための心理プログラムの作成を実施していくことを検討しております。引き続き、ストレスケア病棟を有した開放病棟で運営されている医王ヶ丘病院や老人保健施設であるピカソ、サテライトであるJクリニックとも連携しながら、地域における多様なニーズや要望に対応できるよう、様々な疾病の診療、一般科(身体科)も含めた病診連携、企業・地域との関わりなどを目指していきます。超少子・高齢化社会に突入した総人口減少時代において、微力ながら貢献していきたい所存であります。

十全病院理事長 岡 敬